レビュー/スコア8.5 十三機兵防衛圏 「ちょっと気になる」がもう買い時、傑作ジュブナイルSFアドベンチャー

ゲーム概要

本レビューにネタバレは含まれておりません。

朧村正、オーディンスフィア、ドラゴンズクラウンといった2Dベルトスクロールアクションの開発元として知られるヴァニラウェア製のSFアドベンチャーです。

ざっくりいえばセカイ系でしょうか。人類の敵の巨大怪獣相手に13人の少年少女が立ち向かう物語です。本作品は主人公13人それぞれの視点からオムニバス形式で物語の真相に迫っていくアドベンチャーパート【追想編】、最終決戦をリアルタイムストラテジー形式で戦うバトルパート【崩壊編】からなります。

「ちょっと気になる。けどADVか…」

筆者は興味の方向がアクションやRPGに偏っているので、基本的にADVは手に取りません。有名どころはいくつか遊んだこともあるのですが、やはり自分でぐりぐり動かして結果に影響を与えることができるゲームが好みなので…。

しかしヴァニラウェアの朧村正やドラゴンズクラウンは大好きな作品だったので、直近で時間を持て余していたのも重なり購入。と、ここまででお察しのとおりメーカー買いで、作品そのものに対する興味はそれほど高くない状態で開始しました。

物語とキャラクターが放つ強烈な引力

ストーリー 〇
キャラクター 〇

結論から言うと最高の満足度でした。本作は物語全体の進行度が%表示されるのですが、大体プロローグが一通り終わったあたりまではなんとなくぼーっと眺めるくらいのテンションでちょっと続きが気になるキャラクターがちらほら出てくる程度。そこから本格的に物語とキャラクターの放つ引力に引き込まれ、半分あたりで物語の全容が朧げにつかめだすころには当初のモチベーションの低さが嘘のようで、もう止めることができませんでした。

まるで興味のなかった人間を虜にしてしまうほど物語のけん引力が異常で、この実体験があるから興味のない人に遊んでほしいと言えます。

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一見難解にみえるもののキッチリ答えを用意してくれている

必ずしも時系列準ではない13人もの視点からマスクされている情報を紡いでストーリーを読み解くという構造は、ある種ジグソーパズルを解いていくのに近い快感があります。

キャラクターのプレイ順は進行度によってロックがかかりますが、ある程度は自由が利くので必ずしも全員が全員同じ順番で同じ事実を知れるわけではありません。右上の方から絵ができあがる人もいれば、左の方から全体像が見えてくる人ようなものでしょうか。

そして出来上がった絵である物語そのものは非常に単純明快なので、物語完結後に大きな謎や矛盾が残っていたり、パズルは完成したが結局何が描かれているのかわからないといったことはありません。

優れたイベントアーカイブのおかげで推理するのが楽しい

【究明編】と銘打ったイベントアーカイブではADVパートのリプレイ機能と用語の確認ができるのですがこれが極めて優秀。

普通に進めているとキャラクターの各エピソードがどこの時系列で起きたことなのか把握するのは難しいのですが、究明編では一度見たイベントはキャラクター毎の時系列準にソートされているので、ある程度進行してからざっと眺めると物語の理解がぐっと進みます。

また、用語集は一つの単語でも物語の進行に伴い新しい事実が判明すれば書き加えられていくので、物語の進度に応じた理解と推理の助けにもなります。

クリア後に一気見して理解する上で役立つだけでなく、物語途中の推理を存分に楽しませてくれる画期的なシステムになっています。

個性的で地に足付いたキャラクターたち

13人も主人公がいるにも関わらず、一人たりとも目立たなかったりキャラ被りしていたり役割として必要なかったりしません。癖のある言葉使いやクドいビジュアルといった安易なキャラ付けに逃げず、自然体の思考・会話・行動のみでキャラクターの個性を強烈に印象付けてくれます。

※若干名ステレオタイプなビジュアルのキャラクターがいるじゃねーか!というつっこみが入るかもしれませんが、その恰好にもしっかりと理由があるんです!

説得力と厚みのある世界の描写

グラフィック 〇

2DADVというのは一般的にコストのかからないゲームジャンルという認識を持っている方も少なくないと思います。極限まで省力化してキャラのバストアップ差分、背景、イベントCGだけの全く動きのない絵でも画面を成立させることは可能でしょう。

しかしことヴァニラウェアという開発会社に至っては、普通のメーカーならコストカットの犠牲になるであろう細部もこだわって作っています。

とにかくよく動く画面

キャラクターたちはほんの些細なアクションでもしっかりアニメーションで動いてくれます。ともすればSEとともに「〇〇を手に入れた。」「〇〇を食べた。」で済ませてもよさそうなところでも、しっかりと腰をかがめてものを拾ったり、肉まんを手に持って頬張ってくれたり、立ち止まればそれぞれが個性ある待機モーションを見せてくれたりと飽きさせません。背景のモブたちも活き活きと動き続けます。

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背景は単純な一枚絵ではなく何枚もの遠景用のレイヤーが重ねてあるため、移動すれば視差が生じ奥行きを感じることができます。実際に動画を見ていただくのが一番良いと思いますが、例えるならシャドーボックスや飛び出す絵本といったところでしょうか。

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画面は常にアニメーションしており、ヴァニラウェアにしか出せないと断言できる華やかさがあります。

細部に手を抜かなかったから得られた世界の厚みと没入感

これら一つ一つは取り立てて騒ぐほどではない些細なことかもしれません。猫が活き活き動こうが、食べかけの食事のグラフィックがキッチリ用意されていようが、全体からすれば些事でしょう。

しかしそれらが何層も何層も折り重なり世界の土台を形成することで、人類の危機という大きなスケールの物語を進行できるだけの説得力を獲得しています。これがほとんど動かないタイプのADVであれば感情移入の度合いは大きく下がり、物語の感想もまただいぶ違ったものになっていたと断言できます。

このこだわりがヴァニラウェア

逆に言えばそういった”本線に関わらない細部”だからこそ、コストカットしようとすればいくらでもできたはずです。それを良しとせず徹底的に自分たちのこだわりを追求する職人気質がヴァニラウェアのすごいところであり、多くの人を惹きつけている理由だと思います。

フレーバー程度のバトル要素【崩壊編】

バトルシステム △

ADVの【追想編】と対になるのが物語の最終決戦を描いたバトル要素【崩壊編】です。こちらはリアルタイムストラテジー×タワーディフェンスのようなシステムで、主人公たちの駆る機兵を指揮してわらわらと迫りくる巨大怪獣を迎撃するのが目的となります。

バトル要素単体としてやりこめるほどの深みはない

【崩壊編】をリアルタイムストラテジーあるいはタワーディフェンスものとして冷静に見た場合、本格的にその手のジャンルとして遊べるほどの深みはないです。

強い技と弱い技がハッキリしていて、さらに強い行動はどんな局面でも他の行動を差し置いて通用してしまうケースが多くかなり大味。難易度は最上のSTRONGでも緻密な戦略や攻略を練る必要はあまりありませんでした。そもそも成長システムがいくらでも強化可能で、最初からストラテジーものとして緻密にバランスを取るつもりもないと思われます。

ただし、あくまで上記評価はストーリークリアまでの話となります。崩壊編はどこまで続くのかわからないおまけステージがあるのですが、もしかしたら数百ウェーブとか越えた先にはとてつもない戦略と究極まで鍛えた機体を駆使しないと突破できない夢幻の世界が待っているのかもしれません。

物語がぐいぐい引っ張ってくれるので強烈に感情移入できる

なんといってもこのゲームのキモの部分はストーリーとキャラクターであり、そこが強烈な引力を放っています。

【崩壊編】はADVパートの進行に伴って段階的にプレイすることとなるのですが、最初のうちは「え~バトルかぁ~、頭がアドベンチャーパートになってるのに交互にやっていかないといけないの面倒だなぁ」なんて思っていたのが、ADVを進めるうちに物語の引力に引き込まれキャラクターに愛着がわきだすと、徐々に命を賭して戦う主人公たちの安否に気が気じゃなくなっていくのです…!

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そこまでくればもうアウツ…もうこのゲームの罠にかかっています。バトル要素はあくまでメインデッシュのフレーバーと考えたら、【崩壊編】はこれ以上ない最高の出来栄えといえます。

レビュースコア

8.5
  • 世界観
  • ストーリー 〇
  • キャラクター 〇
  • グラフィック 〇
  • バトルシステム △
  • ゲームバランス
  • 操作性・UI
  • ユーザビリティ
  • 中毒性
  • カジュアル向け 〇
  • ゲーマー向け
  • × プレイ時間

総合評価

もしこの作品の何かがあなたの中で引っかかって少しでも気になっているのなら、情報収集は切り上げ思い切って購入することをお勧めします。なぜならその「ちょっと気になるなぁ」ぐらいがもうADV・ノベルゲーにおける購入意欲の限界値…言い換えるなら買い時といえるからです。あなたが普段ノベル系のゲームを遊ばないのであればなおのこと。

というのも、脚本が売りのゲームのプロモーションの難しさにあります。この手のジャンルは一番面白い部分(ストーリー)はネタバレそのものなので、どれだけ手を尽くしても作品の本当の売りを伝えることができない、伝えてはいけないという悲しみを抱えています。導入部が遊べるプロローグ編ですらこのゲームの面白さのコアにはまだまだ到達していません。

ゲームの場合、小説や映画に比べ単価の高さと消費時間の長さを考えると「ちょっと気になるなぁ」ぐらいでは足踏みしてしまう気持ちはわかります…。私が当初購入モチベーションがそれほど高くなかった理由もそこでした。

しかしこれほどの出来のSFモノADVゲームはそうそう出るものではありません。この先何年も比肩し得る作品が出てこなくてもまったく不思議ではないと自信を持っておススメできる名作です。

クリアタイム40時間弱。ボイススキップやアーカイブの利用頻度次第で結構変動するかもしれません。